白杖の役割 後編

「白杖の役割 前編」の続きです。

 

白杖を使用している際に経験したことの中で、みなさんに伝えたい内容を紹介します。

 

九年前、研修で東京に行ったときのことです。当時は日常的に白杖を携帯していませんでした。新宿駅で駅員の方に道を尋ねると、「あっちです。」と忙しそうに指し示されました。お礼を伝えて教えていただいた方向に進むと、三方向に分岐していました。どの通路も幅広く、分岐している方向を把握するだけでも精一杯でした。点在するたくさんの案内表示の中から、単眼鏡で必要な情報を得ることにも苦労しました。行き交う人たちに援助依頼をしながら、なんとか目的地まで辿り着きました。

そして翌年。今度は、白杖を携帯して新宿駅を利用しました。案の定、道を尋ねることになり、駅員の方に援助依頼をしました。すると、駅員の方は

「この道を進むと三方向に分岐しています。一番右の通路を進み、セブンイレブンを通過すると目的の場所に到着します。そこには別な駅員がいますので、困ったことがあれば遠慮なく声を掛けてください。」と、構内図に沿って説明してくださいました。駅や病院、店内等の対応時には白杖を所持していることで、多くの情報を提供してもらえます。それは、周りの方々が見え方に困難を抱えていることを理解して対応してくれるからです。

 

これらの経験などを通して、白杖を持っている人に対する周囲の方々の気遣いを感じています。しかし、見えない見えにくいがために、これらの気遣いに気が付かないこともあります。また、白杖を持つこと自体に抵抗のある方も少なくありません。実際に「自分は見えているから白杖を持たなくても歩ける。人前で白杖を持つと周囲の目が気になる。」という声を耳にします。その気持ちも、とてもわかります。私にもそういう時期がありました。

白杖は自ら身を守るための手段であることだけではなく、周囲の人たちへの思いやりにもつながると思っています。直接本人から聞かなくても、見ただけで視覚に障害をもっていることが伝わるからです。そのシンボルとしての役割は、周囲の人にとっても有用性のあるものなのです。

 

デメリットは無いとは言えませんが、視覚に不自由さを抱えている人であればメリットの方が遥かに上回ります。自分にも周囲の人たちにも良い効果をもたらす具体的な場面を知ったり、自分で体験したりすることが白杖と向き合う方法だと考えています。

 

私は白杖の有用性を知り、持つようになったことでわかったことがありました。白杖を持たずに歩いていた時の自分は、冷や汗をかいたりドキっとしたり、しかめっ面で歩いていました。少し前かがみで、うつむいて歩いていたと思います。しかし、持つようになってからは、リラックスした状態で周囲の景色や空気を楽しみながら、背筋を伸ばして堂々と歩くことができています。